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インターバルにそえて

布団に横たわれば同じ目線。うつらうつらと船をこぐ相手の頭をそっと撫で、髪の手触りを確かめる。先程まで汗を伝わせた色気はどこへやら、あどけなささえ感じる顔はとても二十歳過ぎとは思えない。起きて動いてる時の可愛いげのなさまでもはや好ましいのだから重症だ。意識せずとも重なる過去の面影に指で額を撫でる。
「汚しちゃったなー……」
口をついて出た自嘲の呟きに微睡んでいた影山の目がぱちりと開く。
「いまさら……?!」
「逆にドン引き、みたいな顔やめろクソ」
愛想以外の表情は豊かでそして大袈裟な相手の驚愕に舌打ちしたい気分になる。
中学で手ぇ出しといて、が脳内で注釈される付き合いの長さと理解力だ。
はったおすぞ、まで続けかけて状況的に不利だとクールダウン。
だいたい全てが合意の上で今に至るのに反応が失礼すぎる。思春期の劣情がタガを外したという部分があるにせよ、及川の在学中は理性で最後のストップをかけていたし触れる程度で済ませるつもりでいた。背中を押しやがったのは目の前のクソ失礼な相手である。人が必死に作った建前だとか段階をすっ飛ばして引きずり落としてくれた。早く手に入れてしまったおかげで余計ややこしくなった時期もあったが脇に置く。
「だいたいお前が、」
「俺が?」
回想の流れで言いかけて我に返るも既に遅し。一旦沈黙するも、渋々そのまま音にした。
「……及川さんの言うことならなんでも聞きます、みたいな顔するんだもん」
「いや、さすがにそこまでは」
「即答すんのがお前のムカつくところだよ」
神妙な態度が秒速で飛んだ。影山相手だとおちおち反省もできない。この思ったことを隠さない直球さが馬鹿であり個性であり結局は魅力な事実に歯軋りをしたい。溜め息で誤魔化す及川を変わらず見つめること数拍、再度開いた口がぽつりと零す。
「及川さん欲しかったんで」
どれに何に対する答えだと聞くまでもない。
眠気など完全に消えたらしい相手のまっすぐな瞳が己を射抜く。
「こういうとき、俺のことだけ見てて気分よかったです」
「お前のそういう時間差爆撃みたいなとこホントやだ!!」
反射的にシーツへ顔を伏せる。熱を逃がしようもないのが憎い。呻きたい気持ちで一杯のところへ更なる追い討ちがくる。
「俺は及川さんのめんどくさいとこ面白いです。あ、好きです」
「言い直してんじゃねえよ」
「面白くて好きです」
「ちがう!!」
全くもって嬉しくない発言にくぐもった声で文句を返せばずれた短縮で繰り返す。思わず顔を上げて噛み付く叫びとなる。
「及川さん、俺にギャーギャーすんの可愛いなって最近すげー思います」
あくまで淡々と言い放つ影山が真剣なだけにたちが悪い。見せたくもない赤面まで晒して起き上がったからには示してやらねばおさまらぬ。申し訳程度に掛かった布団をはねのけて顔の近くに手を突いた。
「煽ったの分かってるよね?」
見下ろす視線を受け止めた影山は瞬きひとつ。シーツへ波を生んだ手に唇を寄せる。瞳に色が乗ったのを確かめて、今度こそ及川は舌を鳴らす。
「上等」
生意気な従順だなんて片腹痛い。

2018/03/13

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