何をもって負けとするか
はあい、みんなの及川さんです。こういうこと言うと「公共物ならもっとまとも」とか暴言飛んできたりするんだけど妬みってカッコ悪いよね。まあそんな大人気及川さんにはなんと恋人がいてお互いの家も行き来する間柄だったりして、今日だって俺が部活のない月曜日だから二人の時間作ったりしちゃうラブラブ加減なんだよね!そいつも部活やってるしお互いに練習終わりだと会ったとしてもちょっと話してバイバイになりかねないって中で余裕のある日は貴重ってワケ。借りてた雑誌返します、とか理由つけなくても俺に会いたいなら言えばいいじゃんバーカ!お前のそわそわ結構分かりやすいんだよ!
ここまで延々と脳内で自棄みたいなテンションで喋ってるかってそりゃまあそれなりの理由がある。そのいち、ヤツは部活に全力だ。そのに、体力を使い果たすと人間は眠くなる。そのさん、俺の肩にそれなりの重みが乗っかって約三分。
図体だけはすくすくと育ちやがったクソ可愛い後輩兼恋人の影山飛雄が俺にもたれ掛かって転た寝の真っ最中だ。
まず俺の部屋は和室だからベッドがない。そうなると背中を預けるなら座椅子もしくは壁だ。だから横着と言われようが畳んだ布団をクッション代わりにすることはよくあって、雑誌を読むなら大体はその体勢。寝っ転がると持ち上げてる腕が疲れてきちゃうしね。
返された雑誌のあそこが良かったとか話してるうちに開いて二人で読み込んじゃってた、そこまではいい。集中すると会話も途切れがちになるじゃん、俺も気にしてなかった。そしたらさ、ぽふって。ほんとそんな感じで凭れてきたんだけどアイツ?!なんなの気が抜けたの安心してんの及川さんの前で!はあ?!
いや飛雄は本能で生きてるからさ、腹減った眠い寝るで動いてると思うよ。今日だって疲れが勝っちゃったんでしょ分かってる。
でもコイツさっき寝言で「及川さん」って言った!そのあとが「負けません」だったの可愛くねえけど俺の夢見てる時点で俺のこと大好きかよ知ってたわ!!
起こすのも忍びなくて雑誌そっと横に置いて寝顔観察するくらい勝手だよね、無防備ムカつくマジで。
体感時間三十分どころじゃねーわって感じのところで飛雄の瞼がうっすら開いた。おっ、起きたかな?と覗き込みかけて思わず固まる。おもむろに上がった手が割と迷いなく胸元へ触れて筋肉をまさぐった。
「胸筋…」
「揉むな」
寝惚けるならもう少しあるだろチクショーーー!!でもそういうバカなとこが可愛いとも思ってるよチクショオオオオオオオオ!!
「筋肉も勝ちます」
「も、ってなんだ負けてねえからな、及川さんお前に負けたつもり全くないからな??」
未だムニャムニャすり寄ってくる飛雄抱き締める体勢を整えつつ、どの程度のチューならセーフか考えだした俺はきっと悪くない。
2018/06/02