本領発揮
日曜の朝、久々に目覚ましを気にせず起床した及川は、リビングの扉を開いて思わず瞬く。ロードワーク帰りと思われる影山がウェアのまま、机の上に放置したチラシをじっと見つめていたのだ。「なに見てんの」
欠伸を零しながら歩み寄れば、おはようございます、と律儀な挨拶。短く返して伸ばした手で頬をひと撫で、心得たように瞼を閉じる相手へ唇を寄せた。随分と慣れたものだと、今更ながら感慨深い。日常のリズムへ組み込んでしまえば、抵抗なく受け入れるのは簡単すぎやしないか悩むところでもあるが、自分に対してちょろい分には大歓迎だ。軽く触れ合わせて唇離せば、会話の続きのように話題のそれを持ち上げて見せる。照れなくなったのは少しつまらない。
「プラネタリウムだ。夏が近いと多くなるよね」
地域の催しでは小学生対象で団体様をよく見かける。及川も小さい頃に何度か学習名目で参加したことがあった。自ら進んで行く選択肢にはなりにくい施設だが、きっかけさえあれば足を運ぶのもやぶさかではない。星空を見上げる空間の幻想的な雰囲気は割と好きだった。
「ここってすげー気持ちよく寝れますよね」
「寝るなよ。いや寝るなよ」
「母さんがあれ気持ちいいって」
「影山家!」
お前の自由さは遺伝か。星に興味があるのかと思えばこの返答。可愛いやつめ、でほっこりした気持ちを返して欲しい。
朝ごはんへ意識をシフトし始める及川をよそにまだチラシを見ている形山がぽつりと呟く。
「プラネタリウムってなんかこう、オシャレな方向性?のアピール多いですね」
「まあ、星って決して手の届かない綺麗なもの、ってイメージ結構あるからね。ロマンなんでしょ」
コーヒー豆を戸棚から取り出しつつ答えると、心底意外そうに及川を見る。
「え、そんな後ろ向きなんですか」
「もう少し情緒ある捉え方しろよ.…」
「や、でも俺は昔、及川さんがきらきらして見えて星みてえだなって思ったど、ぜってー追い付くって決めたし、いま隣にいるし捕まえました」
「っげっほ!」
繊細さの欠片もないコメントに呆れた矢先、突如投げ込まれた兵器に咳き込んだ。疑問符を飛ばしてこちらを見る相手から顔を背ける。顔が熱い。とんでもないロマンチストだ。
「……お前、よっぽどタチ悪い」
2018/05/27
おいしい匙かげん無配。