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いただきまして、

「せっかく15歳になったのに何が駄目なんですか」
「15歳だからだ」
 至極当然の答えはしかし、相手の納得を得られない。
 昔は昔、今は今。そんな風に口下手ながらも全力をもって説いてみせた冨岡に対して炭治郎はこう言ってのけた。
「現代は倫理があって大変ですね」
 大正にはなかったみたいに言うな。
 即座のツッコミは心の中で放たれた為、もちろん相手には届かない。相手だって常識は理解はしている。ただ、前例があるのがまずかった。想いを交わした遠い記憶、つまりは前世。冨岡義勇と竈門炭治郎はいわゆる人生2周目なのだ。
 全てでなくとも壮絶な生き様をフラッシュバックさせては今生の平和に感謝し、友や仲間と過ごせる日々を大切にしている。そんな中で明日の保証もなかった想い人と再び通じ合えたのは奇跡といえよう。
 ただし、現代の年の差は洒落にならない。
 教師と生徒は世間体が危険すぎた。せめて卒業までは、そう決意した冨岡の理性を真っ正面から崩しにかかってくる。
 誕生日なので、と上目遣いに負けて口付けを解禁したのが悪かった。そもそも記憶の中の炭治郎とはかなりの急接近からの成立で、それが拍車をかけたのもある。要するに、焼けぼっくいに火がついた。そもそも、あっさり恋仲になっている時点でおかしいという事実からは目を逸らす。愚問だからだ。
 そんなこんなで、冨岡の部屋という安全圏になればぐいぐい押してくる炭治郎を宥めすかして数ヶ月。まさかの布団の近くで押し問答が始まってしまい、深い溜め息を吐いた。
「俺とお前が出会ったのはいつだ」
「俺が小学生の時ですね。前より早くて嬉しかったです」
 きちんと意味を汲み取りハキハキと答える様は愛らしいが本題は別だ。
「それから今まで、俺が誰かと付き合ったか」
「えっ、俺じゃないんですか」
「……自覚があるなら気付け」
「?????」
 互いしか見ていないのは自明の理。だが介入の余地がなければどうなるか。
 疑問符を飛ばす炭治郎へ淡々と告げた。
「俺に経験はない」
 瞬きひとつ、すぐさまガッツポーズを取る相手。
「やった!」
「喜ぶな」
「だって前は違ったかもしれませんし」
 正直、そこまで事細かに覚えてはいない。昔のことはさておき、大事なのは現在の話だ。リードすべき立場でどうか、なおさら軽々しく事を進めてはいけない。
 すると炭治郎が真剣な面持ちで言葉を続けた。
「でも義勇さん、それ年数重ねたら余計プレッシャーになりませんか」
「何故そう痛いところばかり突くんだ」
「大丈夫です!段階を踏みましょう!素股から!」
「からじゃない」

 ***

 衣擦れの音と、あえかな吐息。夢だと分かっていても、分かっているからこそ目覚めるまでどうにもできないのだ。
 結局根負けした冨岡がおさわり程度で済ませた夜。空気を読んだ深層意識が過去の情事を再現してくれたおかげで目覚めは最悪だった。己に引いたから反応しなかったのが救いといえる。
 隣ですやすや寝息を立てる炭治郎を見やる。僅か覗く素肌に傷はない。安堵の息が漏れた。
 そっと頬へ手を伸ばせば、体温にすり寄る仕草。口元が緩むうち、閉じていた瞼がぼんやり開く。視界に冨岡を認めて微笑むのだから堪らない。
 厳密には自分ではない、過去の自分に当てられるなんて頭のおかしい話だが、今だって十分幸せだ。
「成人したら覚えてろ」
 途端、ぱちりと炭治郎の目が開いた。
「プロポーズですね」
「前向きにも程がある」

2019/09/23

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