連鎖反応
「俺は言葉にするのが得意ではないから、話を聞くのは面倒かもしれないが」「そんなことありませんよ?!」
突然の後ろ向きな語り出しに握り締めた湯飲みの茶が揺れるほど否定した。
冨岡邸へ通うのが説得ではなく日常になってしばらく。縁側で落ち着いたと思いきや口を開いた相手は、炭治郎の反応を無言で受けると一拍置いてから言葉を続ける。おそらく一連の内容を遮られるとは思わなかった間なのかもしれない、そう気付いたのは僅かに疑問の匂いがしたからだ。
「宇随に、たまには付き合えと言われて」
「はい」
「何故か二人で飲むことになり、お前の話が出た」
「えっ!」
「正確には、伝えられる時に何もしないのは怠慢だという説教のようなものだったが、俺が意味を汲み取れず黙っていたら名指しをされた」
何か言うにしても聞き終えてだからと決めた炭治郎だったが、思わぬ流れに驚くばかりだ。脳内で痺れを切らした宇随が、竈門炭治郎だよ!分かれよ!と怒鳴ったのだけは想像できた。いやそもそも、本当にどうして自分が話題になったのか。混乱のまま聞くしかできない炭治郎へ冨岡は庭を向いた横顔で語る。
「お前から愛想を尽かす時を考えて、」
「唐突ですね?!」
先刻の決意が一瞬で吹っ飛ぶ発言に食い付くも今度は止まらず、視線を流す動きで合わせてくる。涼やかな瞳で射抜かれた。
「お前を失ったのなら、水を絶たれて枯れる草木のようになるだろう、とは思った」
「っっ……!」
息を飲む。真っ正面から浴びる想いは切実な匂いと共に炭治郎を襲う。溢さないよう置いた湯飲みを弾き飛ばさず済んだ利き手で胸を押さえ呻いた。
「義勇さん、伝えるのが苦手とかもはや詐欺です……あと宇随さんありがとうございます……」
「炭治郎、俺へは」
動揺のあまり、その場にいない宇随への感謝まで述べると微かな不満の匂いを纏って冨岡が距離を詰める。頬に触れる掌は心地よいと身体が伝えるが脳内はそれどころではなかった。
「義勇さんは、ちょっと、俺が動けるまで待ってください」
言われた通り、頬を撫でるだけに留めてくれる冨岡の誠実さがいっそ拷問だったのは別の話である。
後日、宇随の元へ菓子折りを持って挨拶に行った。
2019/10/30