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骨抜きの意

 今更だが冨岡は口数が多くない。
 それでも随分と喋ってくれるようにはなったと思う。
 炭治郎が言葉を切っても継いでくれたり、自分から話題を振ってくれる時だってある。
 ただ、どうしてもまだ、ぎこちなく間が出来てしまうことはあって、それを気にしている匂いも感じていた。つまり今現在、冨岡邸の縁側で睨み合いのようになった沈黙こそ炭治郎の出番だ。
「義勇さん、すきです!」
 視線逸らさず一息で言い切ると一瞬で困惑の匂いに変わる。涼しい顔はそのままに眉間が僅か寄っていた。
「お前は、」
 些か重く開いた口から流れる言葉を遮らず待つ。この間も見つめているのが大事だった。やがて怒ってはいないが表現に悩んだ様子で先を続ける。
「俺が言葉に迷えば、とりあえず言うのはやめろ」
「すみません。でも、とりあえずじゃなくていつも本気です」
「……知っている」
 一瞬、喉で詰まったような息を飲み込み相槌がさらに平坦に、元々ないような表情が消える。困惑から大困惑に悪化したのを感じ取り、慌てて炭治郎が胸の前で両手を振る。喋りながら身振りがつくのは冨岡相手だと大袈裟になる。出来るだけ伝えたい気持ちのせいだろうか。
「あ、でも困らせたいわけじゃないので気を付けます!」
「違う」
 今度は素早く届いた返事は否定の意味で、思わず二度ほど瞬いた。先程よりも迷いなく繋がる音はまっすぐ響く。
「お前の想いは迷惑じゃない」
 予想外の直撃に炭治郎が停止した。言葉が足りないと判断したのか、心配そうな匂いをさせた冨岡が眉尻を下げて一瞬、ほんの少しだけ視線を外してから小さく紡ぐ。
「その、いとしいと、おもう」
 たどたどしく放たれた思慕に耐えられず、炭治郎はその場にくずおれた。
「かわいくて、むりです」

2019/10/06
義炭ワンライ「見つめ合う」

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