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請い恋

after

「で、冷静に考えていつ計ったん?長期計画やったん?ちゅーか最初のプレゼントがそれて重ない?」
「数年越しで怒濤のダメ出しやめてや……」
 酒の勢いで問い詰めてみれば、片手を上げて降参の意。互いの胸元で揺れるチェーンの先にあるのはあの日の恋心に相違ない。
 見事に受験を突破した財前は謙也の大学との中間地点で同居を始めた。寂しさからの急展開は謙也の長年抑えた愛情と相まって凄まじかった。
「やっぱ最初から指輪は重いかなとかハードル高いやんなとか色々考えてんけど、こう、小遣いもらう身分で買うんもしっくりこんかってタイミングうかがってたら大学やっちゅーあれな!」
 いっそネタとばかりに開き直られては呆れた視線を投げるしかない。そう、要は謙也が贈り物をするならばと考えた最初の候補が指輪だったのである。被保護者の学生には敷居が高く、ピアスを渡すことも考えたがそればかりつけるようになったら申し訳ないと打ち消したようで。そもそも小遣いではなく自分で買いたいと思ったことが拍車をかけた。ちなみにピアスの件を聞いて自惚れだと指摘できない財前も大概なのは今更だ。
 宅飲みでグラスを傾けながら眉を下げる謙也は困った口調のくせに嬉しそうだ。いつまで甘やかすのかと不安を募らせたこともある過去の自分に言いたい。この人はおそらくずっとそうだと。
「ちなみに、そもそも指輪を最初に思い付いたんいつなん?」
「え、付き合って一ヶ月」
「重すぎて真顔になるわ」
 蓼食う虫も好き好きとは至言である。

2019/06/08

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